第285章

 理由はどうあれ、今回の人生における望月琛は、幾度となく彼女を窮地から救い出してきた。

 これまでの恩讐はさておき、今回もし望月がいなければ、彼女はとっくに瓦礫の下敷きになって命を落としていただろう。

 だからこそ、前田南は望月琛が目の前で死ぬのを、ただ黙って見ているわけにはいかないのだ。

 あたりは刻一刻と闇に包まれていく。望月の意識は混濁し、瞼はまるで鉛の石を乗せられたかのように重く、目を開けていることさえ叶わない。

 それでも彼は、前田の手を固く握りしめたまま、音のない唇を動かした。

 何を言っているのか分からず、前田は望月の口元に耳を寄せる。涙を堪えながら、ようやくその数文...

ログインして続きを読む